相続法改正前の遺留分減殺請求において相続財産の評価が問題になった最高裁判決を紹介します。
最高裁令和7年12月18日判決
本件は、本件遺言において上告人が相続することとされた亡Bの遺産に関する第1事件から第3事件までが併合審理されている事案です。
第1事件から第3事件の大前提として、遺留分侵害額の算出に当たり、本件土地2の共有持分4分の1の評価が問題になりました。

遺留分については、以下の記事参照
第1事件
亡C及び被上告人X3が、遺留分減殺請求により、上告人に対し、各自の共有持分に基づき、本件土地1・2について所有権・持分一部移転登記請求を求めるとともに、上告人との間で、本件株式1・2についての共有持分の確認を求めた事案です。
所有権・持分一部移転登記請求ができる割合が問題になりました。本件株式1・2についての共有持分の確認については、自分以外の他の共有者の共有持分の確認請求が認められるか?が問題になりました。
第2事件
上告人が、本件遺言により本件貸金債権を相続したと主張して、被上告人Y社に対し、本件消費貸借契約に基づき、本件貸金債権の未返済額及びその遅延損害金の支払を求めた事案です。
亡C及び被上告人X3による遺留分減殺請求により上告人が相続した貸金請求権の内、どの割合が確定的に上告人に帰属するのか?が問題になりました。
第3事件
上告人が、本件土地1を亡Bから相続したことに伴って本件賃貸借契約における亡Bの賃貸人たる地位を承継したと主張して、被上告人Y社に対し、本件賃貸借契約に基づき、平成26年12月1日から平成31年4月1日までの期間に対応する未払賃料及びその遅延損害金の支払を求めた事案です。
遺留分減殺請求権の行使前後で、上告人に帰属する賃料債権の額が変化するのか?が問題になりました。また、上告人が主張する相殺をどのように行うのか?が問題になりました。
事案の概要
亡Bは、平成26年11月に死亡し、妻である亡C並びに子である上告人、被上告人X3、同X1、同X2及び第1審原告Aが亡Bを相続した。
亡Bは、生前、自身の遺産の一部について、上告人、被上告人X1、同 X2及びAにそれぞれ相続させ、又はDに遺贈すること等を定めた公正証書遺言をしていたところ、本件遺言において上記5名が取得することとされた亡Bの遺産及びその亡Bの相続開始時点における評価額は、原判決別紙2の「遺贈」欄記載のとおりである。
亡Bの遺産のうち、本件遺言において遺産として記載されなかった財産及び亡Bの相続人らがこれを法定相続分に従って取得した場合における各相続人の取得分の上記時点における評価額は、原判決別紙2の「未処理遺産」欄記載のとおりである。
亡Bは、生前、亡C、被上告人X1及び同X2に対し、自己の財産の一部を贈与していたところ、これによって上記3名が取得した財産及びその相続開始時点における評価額は、原判決別紙2の「生前贈与」欄(ただし、そのうちの番号1の評価額を除く。)記載のとおりである。
上告人は、亡Bの死後、本件遺言に基づき、第1審判決別紙物件目録記載1から7までの土地(「本件土地1」)について相続を原因とする所有権移転登記を経由するとともに、同目録記載8から16までの土地(「本件土地2」)の共有持分4分の1(「本件遺言対象持分」)について相続を原因とする持分全部移転登記を経由した。
なお、本件土地2のうち本件遺言対象持分以外の共有持分については、亡Bから亡C、被上告人X1及び同X2に対して各4分の1の持分の贈与がされている。
本件遺言において上告人が相続することとされた亡Bの被上告人Y社に対する貸金債権(未返済額は1億8,537万0,100円)は、亡Bが平成14年頃に被上告人Y社との間で締結した金銭消費貸借契約に基づくものであるところ、その弁済期について特段の定めはされていない。
被上告人Y社は、平成3年頃、亡Bとの間で、本件土地1を亡Bから賃借する旨の賃貸借契を締結し、これに基づき自社の所有する建物の敷地として本件土地1を使用しているところ、本件賃貸借契約においては、毎月5日が当月分の賃料の支払期限とされており、遅くとも平成24年頃以降、賃料は月額27万7,200円とされている。
上告人は、本件土地1を亡Bから相続したことを前提に、令和3年4月、被上告人Y社に対し、平成26年12月1日から平成31年3月31日までの期間に対応する本件賃貸借契約に基づく賃料債権を自働債権とし、被上告人Y社が上告人に対して有していた同月9日を弁済期とする会社法423条1項に基づく367万5,000円の損害賠償債権(那覇地方裁判所平成31年(ワ)第92号損害賠償等請求事件において上記金額の限度で請求を認容する旨の判決が確定している。)を受働債権として、両債権を対当額で相殺する旨の意思表示をした。
亡C及び被上告人X3は、平成27年11月11日、上告人に対し、本件遺言に基づく亡Bの相続について改正前民法1031条の規定による遺留分減殺請求権を行使する旨の意思表示をした。
亡Cは、自身が本件遺留分減殺請求によって取得することとなる亡Bの遺産のうち、本件株式1及び本件株式2の各準共有持分については、被上告人X4にこれを遺贈し、その余の上記遺産については、これを亡Cの相続人である被上告人X3、同X1及び同X2に4分の1、2分の1、4分の1の割合でそれぞれ相続させること等を定める遺言をした後、原審係属中に死亡した。
原審の判断
原審は、1審が認定した本件土地2の共有持分4分の1相続開始時の評価額を是正しました。しかしながら、生前贈与時の評価額については、是正しませんでした。
本件土地2の共有持分4分の1の亡Bの相続開始時点における評価額を1,284万0,892円とした第1審判決の認定には、もともと上記持分の評価額として算出された額(5,136万3,571円)に更に4分の1を乗じた誤りがあると指摘した上で、本件遺言対象持分の上記時点における評価額については、これを5,136万3,571円に是正したが、同じく本件土地2の共有持分4分の1である本件各生前贈与対象持分の上記時点における評価額については、第1審判決の上記認定を是正することなく引用し(原判決別紙2の「生前贈与」欄の番号1参照)、遺留分に係る計算をして原判決主文の結論を導いた。
最高裁の判断
遺留分減殺率
本件土地2の共有持分4分の1の亡Bの相続開始時点における評価額については、これを5,136万3,571円として遺留分に係る計算をすることになるから、その計算に当たって基礎となる財産及びその上記時点における評価額は、原判決別紙2の「生前贈与」欄の番号1記載の金額を亡C、被上告人X1及び同X2のいずれについても5,136万3,571円と修正するほかは、同別紙記載のとおりとなる。そして、修正後の同別紙記載の数値を基礎とすると、本件遺言による遺留分の侵害額は、亡Cについて7,469万6,604円、被上告人X3について2,912万4,035円であり、上告人が本件遺言に基づき亡Bの遺産を相続したことについて減殺を受ける額の合計が上告人受遺財産の評価額に占める割合は、379万0,032分の82万7,789(「合計減殺率」)と算出される。
亡C及び被上告人X3が本件遺留分減殺請求によりそれぞれ取得した上告人受遺財産についての共有持分の割合は、本件遺言による亡Cの遺留分の侵害額(7,469万6,604円)と被上告人X3の遺留分の侵害額(2,912万4,035円)とで合計減殺率を按分した割合となるから、亡Cのそれは379万0,032分の59万5,575(「亡C減殺率」)、被上告人X3のそれは379万0,032分の23万2,214(「X3本人減殺率」)とそれぞれ算出される。
第1事件
本件土地1についての請求は、①被上告人X3については持分1,516万0,128分の152万4,431(亡C減殺率に被上告人X3が亡Cの共有持分を承継した割合である4分の1を乗じた割合とX3本人減殺率を合計した割合)、②被上告人X1については持分252万6,688分の19万8,525(亡C減殺率に被上告人X1が亡Cの共有持分を承継した割合である2分の1を乗じた割合)、③被上告人X2については持分505万3,376分の19万8,525(亡C減殺率に被上告人X2が亡Cの共有持分を承継した割合である4分の1を乗じた割合)の各所有権一部移転登記手続を求める限度で、それぞれ理由がある。
また、本件土地2についての請求は、上記①~③と同じ計算による各割合に本件遺言対象持分の割合である4分の1をそれぞれ乗じ、被上告人X3については持分6,064万0,512分の152万4,431、同X1については持分1,010万6,752分の19万8,525、同X2については持分2,021万3,504分の19万8,525の各持分一部移転登記手続を求める限度で、それぞれ理由がある。
もっとも、被上告人X3についての上記の各結論は、原判決よりも上告人に不利益となるから、被上告人X3の上記各請求については、原判決の結論を維持するにとどめるほかない(民訴法313条、304条)。
上告人受遺株式についての請求は、被上告人X3が379万0,032分の23万2,214(X3本人減殺率)の割合で共有持分を有すること及び同X4が379万0,032分の59万5,575(亡C減殺率)の割合で共有持分を有することの確認を求める限度で、それぞれ理由がある。
もっとも、被上告人X3についての上記の結論は、同被上告人が確認を求める共有持分の割合(20分の1)を超えているから、同被上告人の上記請求については、同被上告人が上告人受遺株式について20分の1の割合で共有持分を有していることを確認するにとどめるほかない。
なお、上記の事実関係等の下において、上告人受遺株式の共有持分をめぐる上告人と被上告人X3又は同X4との間の紛争の解決としては、上告人と被上告人X3との間において同被上告人の共有持分を確認し、上告人と被上告人X4との間において同被上告人の共有持分を確認すれば足りるから、上告人受遺株式について被上告人X3及び同X4がそれぞれ自分以外の者の準共有持分の確認を求める訴えは、いずれも確認の利益を欠く不適法なものというほかなく、却下を免れない。
第2事件
上告人の請求は、本件貸金債権の未返済額である1億8,537万0,100円に379万0,032分の296万2,243(1から合計減殺率を控除して得た割合)を乗じた1億4,488万3,019円及びこれに対する平成30年5月11日(上告人が遅延損害金の起算日として主張する訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
第3事件
本件相殺の相殺適状日である平成31年3月9日の時点において、本件賃貸借契約に基づく賃料債権のうち、本件遺留分減殺請求がされる前の期間に対応するものについては、その全額である月額27万7,200円の賃料債権が上告人に帰属していた一方で、本件遺留分減殺請求がされた後の期間に対応するものについては、上記月額に379万0,032分の296万2,243(1から合計減殺率を控除して得た割合)を乗じた月額21万6,656円の賃料債権が上告人に帰属していたことになる(改正前民法1036条参照)。そのため、本件賃貸借契約に基づく賃料債権のうち、平成26年12月1日から平成31年3月31日までの期間に対応するものであり、かつ、同月9日の時点で上告人に帰属していたもの(「本件自働債権1」)の合計額は、1,195万2,277円になり、同日の時点における商事法定利率年6分の割合による遅延損害金債権(「本件自働債権2」)の合計額は、159万9,385円になる。
そうすると、本件相殺においては、まず、本件自働債権2(合計159万9,385円)と本件受働債権(367万5,000円)とが対当額で相殺され、次に、本件自働債権1(合計1,195万2,277円)と上記の相殺後の本件受働債権(上記367万5,000円から上記159万9,385円を控除して得た額である207万5,615円)とが対当額で相殺されることになる結果、本件自働債権1は弁済期が先に到来したものから順に消滅し、その残額は合計987万6,662円(上記1,195万2,277円から上記207万5,615円を控除して得た額)になる(民法512条、488条4項3号、489条)。
したがって、上告人の請求は、本件相殺後の本件自働債権1の残額(合計987万6,662円)及び平成31年4月1日分の賃料債権として上告人に帰属する分(本件遺留分減殺請求後の月額賃料21万6,656円を日割計算した7,221円)の合計988万3,883円及びこれに対する平成31年4月6日(上告人が遅延損害金の起算日として主張する上記請求に係る賃料債務について最も遅く到来する支払期限の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。