人身傷害保険金は相続財産に含まれる?-最高裁が初判断-


人身傷害保険金は相続財産に含まれるか?を判断した最高裁判決を紹介します。

 自損事故を起こして死亡したAの相続人Bが、Aの人身傷害保険金の請求権を相続により取得したと主張し、保険会社に人身傷害保険金を請求した事件です。

 保険金については、相続財産に含まれるか?が問題になることがあります。

 生命保険については、以下のように扱われます。

相続における生命保険金の扱い

①受取人を特定の人に指定:受取人の固有権利

②受取人を相続人と指定:相続人が保険契約に基づき保険金を請求

③受取人を被相続人と指定:相続財産

にゃソラ

詳しくは、以下の「相続の対象となる財産・ならない財産」も参照

相続の対象となる財産・ならない財産

被相続人の財産であっても、相続の対象にならない財産があります。相続の対象の財産と対象ではない財産を解説します。

 本件の人身傷害保険は、約款上、人身傷害保険金の請求者(受取人)は「被保険者。ただし、被保険者が死亡した場合はその法定相続人」とされていました。

 被保険者Aが人身傷害保険金の受取人だとすると③と同様、Aの相続財産に含まれると考えられます。

 Aは死亡しているので、人身傷害保険金の受取人はAの法定相続人だとすると②と同様、Aの相続財産には含まれないと考えられます。

 Aが代表者を務める会社は、平成31年、上告人との間で、本件人身傷害条項のある普通保険約款が適用される自動車保険契約を締結した。本件人身傷害条項には、要旨、次のような定めがあった。

(1) 上告人は、急激かつ偶然な外来の事故(被保険車両の運行に起因する事故等に限る。)により被保険者が身体に傷害を被ること(人身傷害事故)によって、被保険者又はその父母、配偶者若しくは子が被る損害に対して、保険金請求権者に人身傷害保険金を支払う。

(2) 被保険者は、被保険車両の正規の乗車装置若しくはその装置のある室内に搭乗中の者、被保険車両の保有者又は被保険車両の運転者をいう。

(3) 保険金請求権者は、人身傷害事故によって損害を被った次のいずれかに該当する者とする。

 ①被保険者。ただし、被保険者が死亡した場合はその法定相続人とする(本件条項1)。

 ②被保険者の父母、配偶者又は子(本件条項2)

(4) 1回の人身傷害事故につき上告人の支払う人身傷害保険金の額は、下記(5)により決定される損害の額並びに損害防止費用及び権利保全行使費用の合計額から、当該損害を補償するために支払われる給付で保険金請求権者が既に取得したものの額等を控除するなどした額とする。

(5) 人身傷害保険金を支払うべき損害の額は、被保険者に、傷害を被った直接の結果として、①治療を要したことによる損害、②後遺障害が発生したことによる損害又は③死亡したことによる損害が発生したときに、損害の区分ごとに、それぞれ人身傷害条項損害額基準により算定された金額の合計額とする。

(6) 本件損害額基準の死亡による損害に関する部分は次のとおりである。

 ①死亡による損害は、葬儀費、逸失利益、精神的損害及びその他の損害とする。

 ②葬儀費は、60万円とする。ただし、立証資料等により60万円を超えることが明らかな場合には、120万円を限度に必要かつ妥当な実費とする。

 ③逸失利益は、原則として、収入額から生活費を控除した額に就労可能年数に対応するライプニッツ係数を掛けて算出する。

 ④精神的損害とは、被保険者の死亡により本人のほか、父母、配偶者、子等の遺族が受けた精神的苦痛等による損害をいう。精神的損害の額は、被保険者の属性別に、ⅰ)被保険者が一家の支柱である場合は2,000万円、ⅱ)被保険者が一家の支柱でない場合で65歳以上のときは1,500万円、ⅲ)被保険者が一家の支柱でない場合で65歳未満のときは1,600万円とす。

 Aは、令和2年1月、上記保険契約の被保険車両を運転中に自損事故を起こし、これにより死亡したものであって、本件人身傷害条項における被保険者に当たる。

 Aの子らはいずれもAからの相続について相続放棄の申述をし、これらが受理されたため、Aの母であるBがAの遺産を単独で相続した。Bは第1審係属中の令和4年9月に死亡し、Bの子である被上告人らが本件訴訟を承継した。

 最高裁は、人身傷害保険金はAの相続財産に含まれると判断しました。

 本件人身傷害条項によれば、人身傷害保険金は人身傷害事故により生ずる損害に対して支払われるものとされ、本件条項1の柱書きは、保険金請求権者を「人身傷害事故により損害を被った」者とする旨を定めている。また、本件人身傷害条項では、人身傷害保険金を支払うべき損害の額について、損害項目に応じて、これを実費、あるいは、損害の程度等を踏まえた特定の方法により算定される額としており、人身傷害保険金の額は、人身傷害事故により生ずる具体的な損害額に即して定まるものとされている。そして、損害を填補する性質の金員の支払等がされた場合は、当該金員の額を控除するなどして人身傷害保険金を支払うものとされている。これらの点からすれば、本件人身傷害条項において、人身傷害保険金は、人身傷害事故により損害を被った者に対し、その損害を填補することを目的として支払われるものとされているとみることができる。

 そして、本件人身傷害条項では、人身傷害事故により被保険者が死亡した場合においても、精神的損害につき被保険者「本人」等が受けた精神的苦痛による損害とする旨の文言があり、逸失利益につき被保険者自身に生ずるものであることを前提とした算定方法が定められていることからすれば、死亡保険金により填補されるべき損害が、被保険者自身に生ずるものであることが前提にされているといえる。

 以上のような本件条項1の文言、本件人身傷害条項の他の条項の文言や構造等に加え、保険契約者の通常の理解を踏まえると、本件条項1は、人身傷害事故により被保険者が死亡した場合を含め、被保険者に生じた損害を填補するための人身傷害保険金の請求権が、被保険者自身に発生する旨を定めているものと解すべきである。本件条項1のただし書は、死亡保険金の請求権について、被保険者の相続財産に属することを前提として、通常は法定相続人が相続によりこれを取得することになる旨を注意的に規定したものにすぎないというべきである。

 したがって、死亡保険金の請求権は、被保険者の相続財産に属するものと解するのが相当である。


PAGE TOP