
お父さんの口座が凍結されちゃって、葬儀費用が払えないの。相続手続きって、そんなに時間がかかるの?

うん、遺産分割がまとまるまでは勝手に引き出せないのが原則。でもね、特定の条件なら、手続きで一部を引き出せる制度があるんだ。

そんな制度があるの?少し安心したかも…!
遺産分割前に、被相続人の預貯金口座から預貯金を引出すことができる制度の内、家庭裁判所の判断を経ない「遺産分割前の相続預金の払戻し制度」を説明します。
- 1. 相続が始まると預貯金口座はどうなる?
- 2. 遺産分割前の相続預金の払戻し制度
- 2.1. どんな場合に使える?
- 2.1.1. 遺産分割前に被相続人の預貯金口座から払戻しが必要な場面
- 2.2. 家庭裁判所の判断の有無
- 3. 家庭裁判所の判断を経ない預貯金の払戻し
- 3.1. 払戻し可能な金額
- 3.1.1. 払戻しの上限金額
- 3.1.2. 具体例①
- 3.1.3. 具体例①
- 3.1.4. 具体例②
- 3.1.5. 具体例②
- 3.2. 預貯金の払戻しの手続き
- 3.2.1. 預貯金の払戻し時に必要な資料
- 3.3. 払戻した預貯金の取扱い
- 3.3.1. 払戻された預貯金が具体的相続分を超えている場合
- 4. 遺産分割前の相続預金の払戻し制度の注意点
- 4.1. 相続放棄できない
- 4.2. 制度を利用せずに払戻しを受けた場合は使途不明金の問題
- 4.3. 他の相続人の同意を得た方がいい
- 5. 遺産分割前の相続預金の払戻し制度を利用したい方へ
相続が始まると預貯金口座はどうなる?
被相続人が亡くなった場合、その事実を金融機関に連絡する必要があります。連絡を受けた金融機関は、被相続人名義の口座を凍結します。
被相続人の預貯金は、遺産分割の対象財産です。遺産分割協議が終了するまでは、被相続人の預貯金口座からお金を引出すことはできません。
遺産分割前の相続預金の払戻し制度
相続開始後、葬儀費用の支払いや生活費の支払いなど相続人が被相続人の預貯金口座から現金を引出す必要がある場合があります。このような場合、遺産分割協議の成立を待ってはいられません。そこで、遺産分割前に、一定の範囲で、被相続人の預貯金口座からの払戻しを認める制度が設けられました。その制度を「遺産分割前の相続預金の払戻し制度」といいます。
どんな場合に使える?
遺産分割前の相続預金の払戻し制度は、以下のような場面で活用されます。
遺産分割前に被相続人の預貯金口座から払戻しが必要な場面
①葬儀費用の支払い
②相続人の生活費のため
家庭裁判所の判断の有無
遺産分割前の相続預金の払戻し制度には、①家庭裁判所の判断が必要なものと②不要なものがあります。

ここでは、家庭裁判所の判断を経ない場合を取上げます。
家庭裁判所の判断を経ない預貯金の払戻し
相続人は、遺産分割前に、家庭裁判所の判断を経ずに、一定の範囲で、遺産である預貯金口座から現金を引出すことができます。他の相続人の同意は不要です。
払戻し可能な金額
遺産分割前に預貯金口座から引出すことができる金額の上限は、以下のとおりです。
具体例①
具体例①
被相続人Xは、甲銀行乙支店に、普通預金300万円・定期預金600万円を有していた。
相続人は、子のA・Bである。
Aは、以下の金額の引出しが可能です。
普通預金:300万円×3分の1×2分の1=50万円
定期預金:600万円×3分の1×2分の1=100万円

普通預金・定期預金は、別々に計算します。
具体例②
具体例②
被相続人Yは、丙銀行丁支店に普通預金300万円・定期預金360万円を有していた。
被相続人Yは、戊銀行己支店に普通預金300万円・定期預金1,200万円を有していた。
相続人は、子のCとDである。
Cは、以下のとおり、預金の引出しが可能です。
丙銀行:普通預金(300万円×3分の1×2分の1=50万円)、定期預金(360万円×3分の1×2分の1=60万円)→110万円の引出しが可能
戊銀行:普通預金(300万円×3分の1×2分の1=50万円)、定期預金(1,200万円×3分の1×2分の1=200万円)→上限の150万円を超えるので、150万円の引出しが可能
預貯金の払戻しの手続き
預貯金の払戻しを受けるには、以下の事実がわかる資料を金融機関に提出する必要があります。
預貯金の払戻し時に必要な資料
①被相続人が亡くなったこと
②相続人の範囲
③払戻しを求める相続人の法定相続分
したがって、被相続人の生前から死亡までの戸籍謄本や法務局で認証を受けた法定相続情報一覧図を提出することになります。
払戻した預貯金の取扱い
払戻された預貯金は、相続人が遺産の一部分割により取得したとして、取扱います。
払戻された預貯金の額をみなし相続財産の算定の基礎に加えます。みなし相続財産に対する具体的相続分から払戻された預貯金の額を控除します。つまり、特別受益の持戻しと同じ扱いになります。

特別受益については、以下の記事参照
払戻された預貯金が具体的相続分を超えている場合
特別受益等により、払戻された預貯金が相続人の具体的相続分を超える場合があります。その場合、預貯金を払戻した相続人は、遺産分割において超過部分を清算する義務を負います。
遺産分割前の相続預金の払戻し制度の注意点
遺産分割前の相続預金の払戻し制度を利用する上で、以下の点に注意が必要です。
相続放棄できない
被相続人の預貯金口座から払戻しを受けると、相続財産を取得したことになります。預貯金の払戻し後に、相続放棄はできません。
制度を利用せずに払戻しを受けた場合は使途不明金の問題
遺産分割前の相続預金の払戻し制度の払戻し可能額の範囲内の金額であっても、ATMで引出すなど、金融機関に上記の資料を提出せずに、払戻した場合は、遺産分割前の相続預金の払戻し制度によって預貯金を払戻したことになりません。この場合、使途不明金の問題として処理されます。
他の相続人の同意を得た方がいい
遺産分割前の相続預金の払戻し制度は、他の相続人の同意を得ずに、相続人が一人で預貯金の払戻しが可能です。これは、あくまでも制度上の話しです。遺産分割前に、他の相続人の同意を得ずに、預貯金を引出すこと自体がトラブルの原因になることがあります。できるだけ、他の相続人の同意を得て、預貯金を引出すのが望ましいです。
遺産分割前の相続預金の払戻し制度を利用したい方へ

全く引き出せないって思ってたけど、制度を使えば少し動かせるんだね!

そうそう。ただ、上限や手続きがあるから、焦らず進めるのが大事だよ。もし困ったら、弁護士に相談して一番スムーズな方法を一緒に考えよう。

うん、安心した!まずは相談してみるね!
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