
この前、遺言書の本を読んでたら、「相続させる旨の遺言」って出てきたの。遺贈とどう違うの?

いいところに気づいたね。それ、実は相続の手続きでとっても大事な違いなんだ。たとえば、「この家を長男に相続させる」と書くのと、「この家を長男に遺贈する」では、法律上の効果が違うんだよ。

えっ、同じ財産を渡すのに違うの?どっちを使うべきなの?

焦らなくて大丈夫。制度を知れば、どんな書き方が自分に合うかが分かるよ
特定財産承継遺言、いわゆる相続させる旨の遺言について説明します。
特定財産承継遺言(相続させる旨の遺言)とは?
実務上、特に、公正証書遺言において、「特定の遺産を特定の相続人に相続させる」という遺言が利用されています。このような遺言を「相続させる旨の遺言」と呼んでいます。
相続させる旨の遺言が利用される背景には、不動産を承継する場合、特定遺贈と同様の処理をしつつ、登録免許税を相続人に有利に扱うというインセンティブがありました。
ただ、相続させる旨の遺言をめぐっては、特定遺贈なのか?遺産分割方法の指定なのか?という問題がありました。
最高裁平成3年4月19日判決
特定の遺産を特定の相続人に相続させる旨の遺言について、最高裁は、遺産分割の方法を定めた遺言であると判断しました。
相続法の改正
2018年の相続法の改正により、特定の遺産を特定の相続人に相続させる旨の遺言のうち、遺産分割方法の指定として遺産に属する特定の財産を相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言を「特定財産承継遺言」ということになりました。
相続させる旨の遺言による財産の承継は、特定財産承継遺言であり、特段の事情がなければ、遺贈とは扱いません。しかしながら、特定財産承継遺言による財産の承継を特定遺贈と同様に扱うことにしています。
全ての遺産を特定の相続人に相続させる旨の遺言
最高裁は、全ての遺産を特定の相続人に相続させる旨の遺言は、全部包括遺贈ではなく、遺産分割方法の指定を前提に相続分の指定が含まれていると解しています(最高裁平成21年3月24日判決)。
特定財産承継遺言と遺贈の違い
特定財産承継遺言と遺贈(特定遺贈)には、以下のような違いがあります。
| 特定財産承継遺言 | 遺贈(特定遺贈) | |
| 財産を受取る人 | 相続人 | 相続人以外の第三者も可 |
| 不動産の登記原因 | 相続 | 遺贈 |
| 不動産登記移転の手続き | 単独申請 | 受遺者と遺贈義務者の共同申請 ※受遺者が相続人の場合は単独申請 |
| 賃借人の承諾 | 不要 | 必要 |
| 農地法3条の許可 | 不要 | 必要 ※受遺者が相続人の場合は不要 |
| 放棄の方法 | 相続放棄 | 遺贈の放棄 |
被相続人が賃借人として賃借している賃借権・借地権の承継について、特定財産承継遺言の場合、賃貸人の承諾は不要です。特定遺贈の場合は、賃貸人の承諾が必要です。
特定財産承継遺言の実務上のポイント
特定財産承継遺言の実務上のポイントをまとめました。
遺産分割は不要
特定財産承継遺言がされている場合、相続開始と同時に、直ちに相続人は財産を承継します。したがって、特定財産承継遺言の対象の遺産は、遺産分割の対象外です。
特別受益の対象
特定財産承継遺言により相続人に帰属する遺産は、特別受益と解されています。持ち戻し計算の対象となります。
寄与分との関係
相続財産の一部の特定の遺産について特定財産承継遺言がなされている場合、相続人は、寄与分に影響されることなく、特定の遺産を取得すると解されています。
寄与分の考慮は、残りの遺産の範囲内でしか行うことはできないと解されています。
遺留分との関係
特定財産承継遺言によって、遺留分を侵害された相続人は、遺留分侵害額請求権を行使できます。
特定財産承継遺言を選ぶべきケース
特定財産承継遺言は、特定の財産を特定の相続人に確実に承継させるのが、基本的な活用方法です。遺産分割協議を経ずに、相続開始と同時に、財産が直ちに相続人に承継されるので、相続による争いを防止できます。
相続・遺言でお悩みの方へ

相続させる旨の遺言って、相続人の間で渡すときに便利なんだね。登記もスムーズにできるなんて知らなかった!

そうそう。相続人以外に渡すなら遺贈にするしかないけど、どっちがいいかはケースバイケースだね。

じゃあ、自分に合った遺言の形を考えるには、弁護士に相談するのが安心だね。

うん、まずは気軽に相談してみようってことだよ。
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