
相続した借金を銀行が免除してくれたら、それで全部解決だよね?

借金の支払義務はなくなるけど、免除された金額に所得税がかかることがあるよ。

えっ、借金がなくなっただけなのに、収入があったことになるの?

そこが問題になった最高裁判決が出たんだ。相続税との関係も含めて、順番に見てみよう。
相続した借金や保証債務について、相続後に金融機関から免除を受けることがあります。借金の支払義務がなくなれば、「これで問題はすべて解決した」と思うかもしれません。
しかし、借金の免除によって受けた利益が「債務免除益」として所得税の対象になることがあります。
最高裁令和8年6月23日判決は、相続した借金が相続後に免除された事案について、所得税法上の非課税所得に当たるかを判断しました。
- 1. 借金の支払いが免除されると、税金が課される場合がある
- 1.1. 債務免除を受けると「債務免除益」が発生する
- 1.2. 債務免除益の課税関係
- 2. 最高裁令和8年6月23日判決の事案
- 2.1. 被相続人は16億円の債務を負っていた
- 2.2. 相続人が債務免除を受ける
- 2.3. 相続税では9億7370万円の債務は控除されなかった
- 2.4. 税務署が所得税を課税した
- 3. 原審は所得税を課すことはできないと判断
- 3.1. 潜在的には相続により取得していた
- 4. 最高裁は原審を破棄した
- 4.1. 相続後に生じた債務免除益は「相続により取得したもの」ではない
- 4.2. 相続税と所得税の二重課税には当たらない
- 4.3. 相続税で債務控除されなかったことだけで非課税にはならない
- 5. 最高裁判決によって「必ず所得税がかかる」と決まったわけではない
- 5.1. 最高裁が判断したのは非課税規定に該当するか
- 5.2. 債務免除益が所得に当たるかは判断していない
- 6. 相続によって借金の支払義務を引継いだ場合に注意すべきこと
- 6.1. 債務免除を受けると、税金がかかることがある
- 6.2. 相続税の債務控除と所得税は別々に確認する
- 6.3. 相続放棄を含め、相続直後から対応を検討する
- 7. 借金が免除されても資金に余裕が生じるとは限らない
- 8. 借金など債務がある相続は専門家に相談を
借金の支払いが免除されると、税金が課される場合がある
債権者が債務者に対して、債務の支払いを免除することがあります。これを債務免除といいます。債務免除は、債権者が債務を無償で免除する一方的な意思表示です。債務免除により、債権・債務は消滅します。
債務免除を受けると「債務免除益」が発生する
債務免除を債務者からみると、債務の支払義務がなくなることによって、経済的な利益を得たことになります。現金を受取ったわけではありませんが、負担していた債務が消滅することで財産状態が改善します。これを現金を受取ったとのと同じように、経済的利益として扱うわけです。この経済的利益を債務免除益といいます。
債務免除益の課税関係
1000万円の債務を負っていた人が、債権者から1000万円全額の債務免除を受けるのは、債権者から1000万円をもらったのと経済的には同じ状態です。
したがって、個人の債権者から債務免除を受けた場合は、贈与税の対象になります。債権者が法人の場合は、所得税の対象になります。

債権者が法人の場合に所得税の対象になるのは、法人からの相続が観念できないので相続を前提とした贈与税の対象にならないからです。
もっとも、常に、債務免除益に対して課税されるわけではありません。たとえば、債務者に資力がなくて債務の支払いができないような状態の場合は、支払いが困難な部分については課税されません。

破産による免責も同様の理由で課税されません。
最高裁令和8年6月23日判決の事案
最高裁判決の事実関係を整理します。
被相続人は16億円の債務を負っていた
被相続人は、銀行に対して16億円の借入金債務を負っていました。裁判上の和解により、合計6億2630万円を期限どおりに支払った場合は、残金の9億7370万円の支払いは免除されることになりました。
その後、被相続人は合計6億2530万円の支払いをし、残り100万円を支払う前に死亡しました。
相続人が債務免除を受ける
被相続人の死亡後、相続人2名が100万円を支払い、9億7370万円の債務の支払いが免除されました。
相続税では9億7370万円の債務は控除されなかった
相続人らは、相続税の申告に際して、当初、相続財産から9億7370万円の債務を控除して申告しました。しかし、9億7370万円の債務を控除しない修正申告をしました。
税務署が所得税を課税した
税務署長は、相続人らに対して9億7370万円の債務免除により、4億8685万円(本件債務の金額の2分の1)の経済的利益が一時所得に当たるとして、課税処分を行いました。
相続人らは、相続により取得した経済的価値に再び所得税を課すのは二重課税だとして、課税処分を争いました。
原審は所得税を課すことはできないと判断
原審の東京高裁は、所得税を課すことはできないと判断しました。
潜在的には相続により取得していた
被相続人から相続した債務であって、相続税の課税価格の算定に当たり、近い将来に免除を受ける可能性が極めて高いこと等を理由に課税価格に算入すべき価額から控除されなかったものが、その後に免除された場合は、当該債務免除に係る相続人の利益は、形式的には当該債務免除を受けた時点で発生したものといえるとしても、所得税との関係では、潜在的には相続により取得していたものとみることが可能である。
また、当該債務免除に係る相続人の利益は、相続により取得した財産のうち控除されなかった上記債務に相当する部分の経済的価値と実質的に同一のものということができる。
最高裁は原審を破棄した
最高裁令和8年6月23日判決は、原審を破棄し、原審に差戻しました。
相続後に生じた債務免除益は「相続により取得したもの」ではない
「相続、遺贈又は個人からの贈与により取得するもの」とは、相続等により取得し又は取得したものとみなされる財産そのものを指すのではなく、当該財産の取得によりその者に帰属する所得を指すものと解される。そして、当該財産の取得によりその者に帰属する所得とは、当該財産の取得の時における価額に相当する経済的価値にほかならず、これは相続税又は贈与税の課税対象となるものであるから、本件規定の趣旨は、相続税又は贈与税の課税対象となる経済的価値に対しては所得税を課さないこととして、同一の経済的価値に対する相続税又は贈与税と所得税との二重課税を排除したものであると解される。
相続した後に本件債務の免除の効力が生じたのであるから、相続人らが、これによる経済的利益を相続等により取得したということはできない。
最高裁は、免除の効力が生じた時点を重視しています。相続人が債務を相続した後に、100万円を支払ったことにより、9億7370万円の債務免除の効果が発生したので、債務免除益は相続によって取得した経済的利益でないと判断しています。
相続税と所得税の二重課税には当たらない
本件債務が相続税法14条1項所定の「確実と認められるもの」に当たらず、相続税の課税価格に算入すべき価額からその金額が控除されないとしても、本件相続後に本件債務が消滅することによって生ずる経済的価値に対して相続税が課されるものではないから、上記経済的利益に所得税を課すことは、同一の経済的価値に対し相続税と所得税とを二重に課すものとはいえない。
相続開始後の債務免除益に対して相続税を課すわけではないので、所得税を課しても同一の経済的価値に対し相続税と所得税とを二重に課すものではないと判断しています。
相続税で債務控除されなかったことだけで非課税にはならない
相続税の計算上、債務控除が認められなかったとしても、その後の債務免除益が、当然に、所得税の非課税になるわけではありません。
相続税における債務控除の判断と、所得税における債務免除益の判断は、別々の課税場面として検討されています。
最高裁判決によって「必ず所得税がかかる」と決まったわけではない
本件の事案で最高裁は、相続開始後の債務免除益に所得税が課されるとまでは判断していません。
最高裁が判断したのは非課税規定に該当するか
今回、最高裁が判断したのは、以下の2点です。
- 債務免除益が所得税法9条1項16号の「相続により取得するもの」に当たるか?
- 債務免除益への所得税課税が、相続税との二重課税になるか?
債務免除益が所得に当たるかは判断していない
本件で最高裁は、債務免除益が所得税法の一時所得になると判断したわけではありません。この点は、沖野裁判官の補足意見でも述べられています。
相続によって借金の支払義務を引継いだ場合に注意すべきこと
債務免除を受けると、税金がかかることがある
債権者との交渉がまとまり、借金が減額・免除されても手続が完全に終わるとは限りません。免除された金額が大きい場合、贈与税・所得税の申告が必要になる可能性があります。金額によっては、納税資金が不足することもあり得ます。
相続税の債務控除と所得税は別々に確認する
相続税の申告の際に、相続財産から債務を控除できるか?という問題と、相続開始後の債務免除益に所得税が課されるか?は、別個の問題です。
しっかりと、税理士に相談することが重要です。
相続放棄を含め、相続直後から対応を検討する
被相続人に多額の借金がある場合、相続放棄を検討する必要があります。相続放棄は、原則、相続開始があったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所に申立てる必要があります。
相続直後から債務の内容・金額、免除の見込み、相続財産の内容・金額などを含めて検討することが重要です。

相続放棄については、以下の記事参照
借金が免除されても資金に余裕が生じるとは限らない
借金の支払いが免除されると、返済するはずだった資金は他の用途に使うことができます。しかし、債務免除益に対する所得税は、現金を受け取っていないにもかかわらず生じる可能性があります。そのため、法的に債務がなくなるかだけでなく、免除後の税負担や納税資金まで含めて見通しを立てることが重要です。 税務申告や具体的な税額については、税理士への確認が必要です。
借金など債務がある相続は専門家に相談を
被相続人に借金などの債務がある場合の相続は、
- 債務が法的に存在するか?
- 債権者との合意内容はどうなっているか?
- 債務免除を受けられるか?
- 債務免除を受ける条件は?
- 相続税で債務控除できるか?
- 債務免除後に所得税等が課税されるか?
- 相続放棄をするか?
といった複数の問題が生じます。
弁護士は、相続放棄、相続債務の整理、債権者との交渉、遺産分割などの法律問題に対応できます。税金の問題については、税理士に相談するのが重要です。

借金が免除されたら、それだけで全部終わりってわけじゃないんだね?

うん。相続税で借金を控除できるか?と、免除後に所得税がかかるか?は、別々に確認する必要があるんだ。

借金が多いときは、相続放棄も含めて早めに相談した方がよさそうだね。

そうだね。相続した債務は、返済や免除だけでなく、税金まで含めて考える必要があるよ。判断に迷ったら、まずは弁護士に相談してみよう。
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